』
『でも、ここは小屋の中だぜ。ホスゲン瓦斯が発生しても、まさか小屋を出てから向うの空気窓にとどくかしら』
『大丈夫、とどくさ』と帆村は自信ありげに返事をした。『ホスゲンは空気の三倍半も重い瓦斯だ。壜の中から小屋の中に流れだすと、床を匍《は》うよ。ところが床下が、ほらこんなにすいている。すると必然的に、屋上に流れ出すじゃないか。しかもその前に、待っていましたとばかり壁で囲まれた空気窓がある』
『空気窓から階下へ入っていったというのかい。逆じゃないか』
『なにが逆なものか。それでいいんだ。いいかね。屋上は寒冷だ。ところが惨劇のあった二階は、夕方から急にストーブを三つもつけて、とても温くなった。だから室内の空気は軽くなっている。ところへこの重いホスゲン瓦斯がやってきたものだから、これは温い空気と入れ替えに喜んで烟突を下ってゆく。そしてあのとおり七人が七人やられてしまったんだ』
『ほほう、そうかね』
『このホスゲンは、相当濃かったので猛毒性をもっていた。十分も嗅いでいれば、充分昏倒するぐらいの毒性はあったと認める。しかし室内の七人は実験に夢中になっていて、それと気づかなかったんだね。恐るべき
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