ないかなあ』
と僕は、この背の低い空気抜けを指していった。
すると帆村は、いきなり僕の腕をとらえた。
『おい今日は朝から寒かったね』
『それがどうした。今日は朝から冷たい雨がふっていたよ。昨日に比べて、たいへんな変り方だ』
『うむ、そこだ。それで話が分ってきた』
『どう分ってきたんだ』
『いや、もう一つ分らねばならないものがある』
と帆村はしきりと空気抜けの烟突のまわりをさがしていたが、やがてその烟突のすぐ近くに立っていた鉄板でくみたてた小屋に目を光らせはじめた。
『これは何の小屋だろう』
『さあ、窓からのぞいてみればいい』
『いや、入口から入ってみよう』
帆村の立っているすぐのところに、この小屋の扉がついていた。把手《ハンドル》をひくと、呆気ないほど無造作に開いた。
帆村は兎のように小屋の中にとびこんだ。懐中電燈が、電光のように揺れた。
『おお、しめた。あったあった。これだ』
帆村は大声で叫ぶなり、一つの硝子壜をつまみあげた。
『なんだ、それは』
『いや、この中にホスゲンが入っていたんだ。この壜は小屋の隅に、横たおしになっていた。その壜の中は、向うの空気窓の方に向いていた
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