て、やりかけていた実験を中止した。すると部屋中にいた全員がまるでいいあわせたようにパタパタと倒れた。よろしい。――貴方も倒れた。その前に、窓のところへいって、窓を二つ開いた。その後は何にも覚えていない。――それだけですか。いやよく分りました』
被害者は、苦しそうに歯をくいしばっている。酸素のコックが、さらに大きくひねられた。
『どうだ、聞いたか』と帆村は手帖をポケットに収《しま》いながら、僕の横腹をついた。
『さあ、現場へ行ってみようぜ』
初めて僕は、惨事のあった室に入った。
実験装置がやりかけたままになってそこに転がっているのも、まことに痛ましいことであった。
『ホスゲン瓦斯は、どこから入ってきたのかね』
『どこから入って来ようもないじゃないか。室内は密閉されてあるのも同然だ』
と帆村は舌うちをした。
『ストーブから不完全燃焼でもって一酸化炭素が出てきたのではないかね』
『ちがう。一酸化炭素なら、被害者の顔は赤くなっても決してこんな蒼い顔になりはしない。やはりホスゲンだ。ほら微《かす》かにのこっているだろう。林檎《りんご》のくさったような匂いがするじゃないか』
なるほど、そ
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