そこには瓦斯中毒の研究で有名な軍医のN大尉が、白い診察服の腕をまくって病人を迎えた。
軍医はすぐさま、寝台の上に寝かした病人の診察にとりかかった。
『研究員、松下清太郎《まつしたせいたろう》。三十一歳――か』と軍医はひとりで肯《うなず》いていたが『よし、酸素吸入を行う。それからカンフルの用意だ』
酸素吸入が始まると、蒼白だった病人の顔に、俄かに赤味がさしてきた。
軍医は、つづいて脈をじっと聞いていたが、不満そうに首をふって、
『瀉血《しゃけつ》をする、急いでくれ』
と、助手たちにいった。
瀉血が、この瀕死の被害者を救った。
『よし、これでまず何とか立ち直るだろう。――警視庁の方。訊問は今から十分間かぎりですよ。それ以上はいけません』
捜査課の幹部は、すぐに松下研究員の枕頭《ちんとう》に集ってきた。そして彼の耳のところに口をつけて、叱りつけるように相手を励しながら、事件の重要点をたずねるのであった。
『――午後三時頃、寒くなったので、窓を全部閉めた。そうですね。――それから、午後四時にストーブを一つつけた。午後五時にあと二つのストーブをつけた。午後七時になって、急に苦しくなっ
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