い職業婦人」の欄《らん》へ、一本のブルブル震《ふる》えた棒を横にひいた。それは脚だけの生きものでしかなかった。脚だけの生きものが、きゅっと締《しま》った白い足袋をはき、赤鼻緒《あかはなお》のすがった軽い桐《きり》の日和下駄《ひよりげた》をつっかけている。その生きものを見ていると身体がフラフラする。身体が言うことをきかなくなる。まだ時間が切れないのかな、と思った。
 すると今度は階段の下からまた一人、僕としては最も正視《せいし》するに耐えない「袴の無い若い職業婦人」が現われた。その欄《らん》へ一本のブルブル震えた棒を横にひくと、恐《こわ》いもの見たさに似た気持で、その白い脛《はぎ》をのぞきこんだ。僕はあんなに魅力のある脛をみたことがない。実にすんなりと伸びた脛だった。ふくら脛はむちむちと張りきり、乳房のように揺《ゆら》いでいた。向う脛の尖《とが》ったふちなどは想像もできないほどまんまるく肉がついていた。その色は牛乳を凍《こお》らしてみたほどの密度のある白さだった。そのきめの細《こまか》い皮膚は、魚のようにねっとりとした艶《つや》とピチピチした触感《しょっかん》とを持っていた。その白い脛が
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