る乗客の下半身を一つ二つと数えればよいのであった。いよいよ時間がきたので、反対側に居る先生が、それッと合図をした。僕は緊張に顔を赧《あか》くしてそれに答えると、その瞬間、鼻先に幼稚園がえりらしい女の子の赤い靴が小さい音をたてて時計の振子のように揺《ゆ》らいで行ったのを「一ツ」と数えて「幼年女生徒」の欄へ棒を一本横にひっぱった。それに続いて黒いストッキングに踵《かかと》のすこし高い靴をはいた女学生の三人連れが、僕の鼻の前を掠《かす》めて行ったが、その三人目の女学生がどういう心算《つもり》だか急に駈け上ったので、パッと埃《ほこり》がたって僕の眼の中へとびこんで来た。僕はもうこの非衛生な仕事がいやになった。
併《しか》し、この仕事をはじめてから三十分も経つうちに不思議な興味が僕に乗移った。駅の階段を上って行く婦人の脚は、だんだんと増えて行った。黒いストッキングが少くなり、カシミヤやセルの袴《はかま》の下から肉づきのよい二三寸の脛《はぎ》をのぞかせて行く職業婦人が多くなった。
その途端に、金魚のように紅と白との尾鰭《おひれ》を動かした幻影が鼻の先を通りすぎるのが感ぜられた。僕は「袴の無い若
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