僕は、もう力もなにもぬけちまって
「二階を、二階を!」
と指《ゆびさ》して所員の応援を求めた。
二三人の所員がかけあがる。
と予期したとおり大きな喚声《かんせい》が二階にあがった。
「四宮さんがネクタイで絞殺《こうさつ》されている!」
「なに、四宮君が……」
彼女こそ、やったのではあるまいかと、その顔を見詰《みつ》めた。睫毛《まつげ》の美しいミチ子の大きな両眼に、透明な液体がスウと浮んで来た。ふるえた声でミチ子が言った。
「……だから、あたし、貴方のために、殺人の証拠になる此の本を取って来てあげたのよ」
5
佐和山女史の懐中からは、四宮理学士の撮った跫音《あしおと》の曲線をうつした写真が出た。それは多分、三階のどこかに学士が危険を慮《おもんばか》って、秘《ひそ》かに隠匿《いんとく》して置いたものであろう。それには明らかに、所長殺害事件のあの時刻に佐和山女史の一種特別な跫音波形《きょうおんはけい》が印《いん》せられていたのであった。女史は、女理学士認定の蔭に所長となにか忌《いま》わしい関係を結んだものらしくその情痴《じょうち》の果に絞殺事件が発生したと伝えられ
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