る。四宮理学士の絞殺も同一手段で行われたのであったが、学士が女史の犯跡《はんせき》を握っていたので、已《や》むを得《え》ず殺害したものらしい。女史が僕にきかせた釦《ボタン》の話は、未《いま》だに解らないが、あの顕微音器のことを、マイクロフォンボタンというから、何かその辺のことをもじって事件の混乱を計画したものであろうと思われる。
 友江田先生とミチ子との関係は異母の兄妹であることが判った。妹のミチ子はその父の変質をうけ継ぎ、小さい頃から自らすすんで曲馬団の中に買われて日本全国を漂泊《ひょうはく》していたのを、友江田先生がヤッとすかして連れもどり、タイピスト学校に入れたりしてやっと一人前の女にし、国研へ就業《しゅうぎょう》させたものであるが、決して兄妹《きょうだい》とも知合《しりあい》であるとも他人に知られてはならないという約束であった。
 だがこれを知ったのは、僕たち二人が友愛結婚をしてしまったあとの話である。
 僕たち同士の変質は(それは亡《な》くなった四宮理学士にはよく判っていたのだろう、恥かしいことだ)もう一日でも別れ別れになることは出来なくなっているのだ。そうだ。今日もこれから
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