す」
と僕は哀願《あいがん》した。
「それはお断りする」と四宮理学士は冷然と僕の願《ねがい》をしりぞけた。こうなっては僕のとる道は一つより外《ほか》ない。身を飜《ひるがえ》して自分の室に帰ると、大急ぎで電話機をとりあげると、研究事務室を呼び出した。あの室では言えないからミチ子をこっちへ呼びよせ、逃亡《とうぼう》をすすめる心算《つもり》だった。だがどうしたものだか十秒たっても二十秒過ぎても、誰も出てこない。僕は仕方なく、室を飛び出すと、ミチ子の所在《しょざい》を知るために、事務室へ出かけた。把手《ハンドル》を廻し扉《ドア》を内側へ押しあけたが、室にはミチ子も佐和山女史も居なかった。それでは図書室であろうと思って、間《あいだ》の扉を図書室へ開いたその途端《とたん》であった。奇妙とも妖艶《ようえん》ともつかない婦人の金切声《かなきりごえ》が頭の上の方から聞えたかと思うと、ドタドタという物凄い音響がして、佐和山女史の大きな身体が逆《さかさ》になって転《ころが》り落ちて来ると、ズシンという大きな音と共にリノリュームの前に叩きつけられた。僕は茫然《ぼうぜん》と女史の、あられもない屍体《したい》の
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