電流の形にかえるマイクロフォンさ。あれは階段についていて、階段を人間がのぼるとその振動が伝わって僕の室に在るフィルムへ、電流の波形がうつるのだ。僕は半年も前から、所長だけの了解を得て、『跫音《あしおと》に現われる人間の個性』という研究をすすめていたのだ。凡《およ》そ人間の跫音は皆ちがっている。そしてその波形には、その人が決して表面に出さない性質までがありありと映《うつ》ることを発見したのだ。実は跫音と人間の性質の研究は僕の独創ではなく、第十九世紀に英国のアイルランドに住んでいたマリー・ケンシントンという敏感な婦人が驚くべき特殊能力を発揮した詳しい実験報告が出ている。僕はそれをフィルム面にあらわし一層|明瞭《めいりょう》にしたのに過ぎない」
「では、あの事件の犯人の跫音が撮《と》れているのですか?」僕は早くそれが知りたかった。
「そうだ。あの時間に一階から二階へのぼって行った一人の人間がある。五分ほどすると同じ人間が二階から一階へ降りて行った。そのあとあの事件|発覚後《はっかくご》までは、誰もあの階段をあがらなかったのだ」
「それは誰です。僕だけに鳥渡《ちょっと》教えて下さい、お願いしま
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