い。その時に不図《ふと》頭の中に浮び出《い》でたことは、あの図書室の三階には、初めて僕がのぼって行ったときに直感した通り、何か重大な秘密が隠されているのであるまいか。僕は何の気もなく三階にいつも上《のぼ》っていたのであるが、あそこは犯人と少くとも死んだ所長とが覘《ねら》っていたのに相違ない。犯人はそれを明《あか》らさまに他人に悟《さと》られることを恐れ、殊更《ことさら》図書室の二階か一階かとなりの事務室かに蟠居《ばんきょ》して、その秘密を取り出すことを覘《ねら》っているのではなかろうか。そうだとすると、人知れず三階に登る人間を、ふンづかまえる必要がある。そこで僕は一つカラクリを考えついた。それは三階へのぼる階段の一つへ、階段と同じような色の表紙を持ったスコットランド・ヤードの報告書を載《の》せて置こうというのである。若し三階へ昇った人間があればなにか足跡がのこるであろう。たとえそれは泥がついていなくとも、リノリュームの脂《あぶら》かなんかがきっと表面に付着するだろう。それを反射光線を使い顕微鏡で拡大すれば吃度《きっと》足跡が出るに違いない。僕は科学者らしいこの方法に得意であった。
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