部《けいぶ》あたりに、ぎらぎら光る汗のようなものが滲《にじ》んでいて、化粧料《けしょうりょう》から来るのか、それとも女史の体臭《たいしゅう》から来るのか、とに角《かく》も不思議に甘美《かんび》を唆《そそ》る香りが僕の鼻をうったものだから、思わず僕は眩暈《めまい》を感じて頭へ手をやった。「彼奴《きゃつ》」がむくむくと心の中に伸びあがってくる。女史も不思議な存在だ。
僕は扉《ドア》を押して図書室へ入って行った。三階へのぼる気はしない。一階の読書机に凭《もた》れて鼻の先にねじれ昇る階段を見上げていた。すると二階でコトンコトンと微《かす》かに音がする。神経過敏になっている僕は、或ることを連想してハッと思った。何をやっているのだろうか。二階へ直《す》ぐ様《さま》昇ろうかと考えたが、僕が行けばやめてしまうにきまっている。僕はいいことを思い付いた。それは、一階には手のとどかない高い書棚の本をとるために軽い梯子《はしご》のあるのを幸い、これを音のすると思われる直下《すぐした》へ掛け、それに昇って一体何の音であるのかを確《たしか》めてみようと考えた。僕は静かに椅子から身を起すと抜《ぬ》き足|差《さ》し
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