うと》探偵になった気で、所内の皆からいろいろの話を集めてまわった。第一に四宮理学士が疑われた。
「貴方《あなた》はあの時図書室から出てどこにいらしったのですか」
 僕は訊《き》いた。
「僕はあの二十分も前に、僕の室へかえっていたのだ。僕さえ図書室にズッと頑張《がんば》っていたら、いくら僕が弱くてもどうにかお役に立ったろうにと思ってね」と四宮理学士は自分の弱さを慨《なげ》いたのであったが、僕にはそれが却《かえっ》て老獪《ろうかい》に響いた。
「あの前、貴方は階段の背後《うしろ》でなにをしておいででしたか」と僕は痛い所を追求した。
「いやあれは鳥渡《ちょっと》……僕の持薬《じやく》である丸薬《がんやく》を落したから、拾い集めて居ただけなんです」と答えたが、その答えぶりから言ってそれは明らかに偽《いつわ》りであることが判った。
 その次に僕は佐和山女史に、それとなく話しかけた。
「貴女は、所長が殺された頃、お席にいらっしゃいましたか?」
「エエ居ました、ずっと前から……。どうして?」
「おかしいナ」僕はあの殺人の三十分位前と思われる頃に、女史があの室に居なかったことを知っている。「それでは、
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