士は遂に手当の甲斐《かい》なく、その儘《まま》他界した。忌《いま》わしい殺人事件が国研の中に突如として起り、しかも白昼《はくちゅう》、所長の芳川博士が殺害されたというのであるから、帝都《ていと》は沸《わ》きかえるような騒ぎだった。その騒ぎの中《うち》に所内に臨時の調室《しらべしつ》が出来、僕たちは片っぱしから判事の取調べをうけた。殊《こと》に僕は、博士に一番近い場所に居て、しかも博士の異変を最初に発見したというところから、とりわけ厳《きび》しい尋問《じんもん》に会わなければならなかった。しかし知らぬことは知らぬというより外に、申し開きようがある筈《はず》がない。判事も僕のはげしい態度に眉《まゆ》を顰《ひそ》めはしたが、あの博士の断末魔《だんまつま》が聴えた後《のち》に、階段を降りて行ったらしい跫音《あしおと》と扉《ドア》にぶつかる音をきいたということを非常によろこんだ。そして所員について一々ただしてはみたが誰一人その時刻に階段を降りたというものはなかった。僕は自分にかけられた濃厚《のうこう》な嫌疑《けんぎ》に立腹し、どうにかして犯人をつきとめてやりたいものと思い、自分だけでは素人《しろ
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