はくかんねん》に捉《とら》われたので、首を引っこめると、念のために二階へ降りてみた。一見《いっけん》異状はないようであったが、階段のうしろに当る狭い書棚の間から、リノリュームの上に長々と横《よこた》わっている二本の男の脚を発見したときには、
「やっぱり、先刻《さっき》やられたんだな」
と思った。恐《こ》わ恐《ご》わその方に近よってみると、これはたいへん、倒れているのは所長の芳川博士であったではないか。僕は大声をあげて博士を抱き起してみたのであるが、博士の身体はグッタリと前にのめるばかりで、もう脈搏《みゃくはく》も感じなかった。どうしたのかと仔細《しさい》に博士の身体を見れば、ネクタイが跳ねあがったようにソフトカラーから飛びだして頸部《けいぶ》にいたいたしく喰い入っている。それは明らかにネクタイによる絞殺《こうさつ》であることがうなずかれた。
声に応じて事務室からとび上って来たのが佐和山女史だった。やがて別の入口をとおって四宮理学士が駈けあがって来た。其他《そのた》の所員たちも多勢駈けつけたが、ミチ子ばかりはどうしたものか却々《なかなか》影をみせなかった。
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博
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