信濃町まで出たものかと、そればかりが気になりだした。ところへヒョックリ四宮理学士が姿をあらわして、これから所内を案内するから附いて来給えと言う。僕は喜んで椅子から立ち上って一緒に廊下へ出た。学術雑誌で名前を知っている偉い博士たちの研究室が、納骨堂《のうこつどう》の中でもあるかのように同じ形をしてうちならび、白い大理石の小さい名札の上にその研究室名が金文字《きんもじ》で記《しる》されてあった。最後に豊富な蔵書で有名な図書室とその事務室とを案内してくれることとなった。先《ま》ず事務室へ入ると大きい机が一つと小さい机が一つと並んでいる外に和洋のタイプライター台があった。そして四方の壁には硝子《ガラス》戸棚が立ち並んで、なんだか洋紙のようなものがギッシリ入っていた。大きい机の前には一人の二十五六にも見える婦人が、黒い着物に水色の帯をしめて坐っていたが、四宮理学士が声をかけると共にこちらへ立ち上って来て、
「わたくしが佐和山佐渡子《さわやまさとこ》でございます」と丸い肩を丁重《ていちょう》に落して挨拶した。
「理学士佐和山さんです。×大を昨年出られた……」と四宮理学士が註《ちゅう》を加えた。僕は
前へ
次へ
全37ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング