あろうか。青年日本の姿は遂に見られないのであるか。残念至極である。

 四月九日
◯建物疎開で、町の変貌甚し。三軒茶屋より渋谷に至る両側に五十メートル幅で道を拡げるというが、それを今盛んにやっていて、大黒柱に綱をつけ、隣組で引張って倒している。そして燃料がたくさん出来、手伝いに来た人達に与えている。雨が降っているが春雨だ、たいして苦にならぬ。
 外食者用食堂[#戦時下食糧統制の一環として配給された、外食券を利用する食堂。現金があっても、券がなければ食べられなかった]とか、銀行とか、配給所が、疎開延期で残っている。
 各部隊から兵隊さんが出て手伝っている。壊した家屋は、やはり焚木用として隊へ持ちかえる。
◯停留場や駅の風景を見れば、三月十日前後や三月二十日前後(これは疎開強化、国民学校授業停止の発表があった頃)に比べると、だいぶ静かになったようだ。
◯新首相、鈴木貫太郎大将は、昨夜新任挨拶を放送した。「政治には素なり、八十に垂んとする老躯をひっさげて、諸君の陣頭に立つは、自ら鑑みて悲壮の感あるも、大命を拝せし以上は陣頭に立ちて突進せん、諸君はわが屍をのり越えて進撃せられたし、但し大いに若
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