軍大臣の年齢に似ぬ元気な、そして円い物の言い方、町田ノンキナトウサン無任相のぼんやりした顔、前田運通相の悪相、緒方国務相の疲れた顔、まずそんなところなり。こういう仕事をせぬ内閣は早く代わるに限る。思えば、今は亡き前文相二宮中将が、組閣間もなく国民学校第二学期の始まっていることを十日も忘れての放送に、大きなケチがついたように感じたが、それは本当であった。
 鈴木貫太郎海軍大将は、枢府[#天皇の諮問機関、枢密院の異称]議長の任にあったが、今度大命を拝した。七十八歳の高齢と聞くが、日本の国はどうしてこう年寄の御厄介にならないとたっていけないと、重臣たちは考えるのであろうか。腑に落ちない。今までそれで散々失敗していながら、戦時下最終の内閣を組立てるのだといわれながら、この老人の顔に出られては、われらの士気もあがらない。
 しかし一説によると、鈴木大将は最も永く天皇の御そば近くに仕えていたので、聖旨を理解し奉ることこの人に及ぶはなく、それで今度選ばれたのだと見る向きもある。
 それが本当なら、肯《うなず》けることだ。しかしこの鈴木大将に御願いしなければならぬほど、日本には逞しい政治家がいないので
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