中さんの右はずれの森の彼方に落ちた(三鷹方面)。その他煙を出した戦闘機四機ばかりあり。憎々しき敵の大編隊を北へ見送る。
 今日は英、晴、暢、それに亮嗣さんも垣根を越して田中さんの地所でこれを観戦す。昌彦も、落下傘が下りるのを壕から顔を出して見た。この落下傘、敵かと思ったが、あとでわかったところによれば陸軍の中尉(山田少尉ともいう)で、野砲連隊の近くに降り、電線にひっかかったが、顔面の少負傷で助かり、部隊へ収容されたという。
◯ラジオの停電で、途中より戦況不明となる。ただし十一時頃、空襲警報は解除となった。
◯大本営発表によれば、本日の敵機は「南方基地より発出せるもの、帝都附近へは百二十機、名古屋へは百五十機が来襲せり」と。
◯内閣は一昨日、辞表を提出した。小磯内閣は果してかけ声をかけただけで終り。三月十日の空襲の市街大延焼にて、疎開強化令を出して混乱を生ぜしめた失政軽からず。さらに四月五日、ソ連は日ソ中立条約存続の意志なきことを通告し来り(来年四月二十五日期限)、その余波もくらった形に見える。
 小磯内閣の退陣に当たり印象に残ったのは、米内海軍大臣の朗々たる声と率直な物の言い方、杉山陸
前へ 次へ
全172ページ中51ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング