か。長年言い古され、すでにうるさいほど指摘された官軍民一体化|総蹶起《そうけっき》のガンはここにあると言わざるを得ない。

 十二月二十九日
◯きのう岡東《おかとう》[#岡東浩。海野の神戸一中時代の友人。三菱商事勤務。麻布に居住]夫人がきて、「さっき警報発令前に、麻布十番へ焼夷弾が落ちた」と話して行った。きょう博文館の新青年女史がきて「あれは十番のカーブを電車が急に通った時に高音を発し、それが警防団員の耳に焼夷弾が落ちたように響いたものです」と訂正した。時節柄、神経過敏の度もいよいよきつくなってきた。
◯うちの女房も、情報が「少数機」と言ったのを「五十機」と聞き違えた。きのうのきょうだから、おかしい。
◯「帝都住宅の地下室化」を提唱す。つまり敵弾で遅かれ早かれ焼かれてしまうであろうから、焼けるのを待つよりいっそのこと、その前に自分の手で破壊し、その資材を利用して少数間を有する地下室をつくれというのである。投書の形にして毎日新聞文化部の久住氏へ送る。(なおこの際思いきって生活の簡素化をはかれとも記した)

 十二月三十一日
◯一昨夜、敵三回目の空襲には油断があったらしく、両国、柳橋辺がち
前へ 次へ
全172ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング