。この日敵機三編隊計九機位が関東北部をうろうろしていて、帝都へはなかなか近よらず。そのうちに情報が出て「敵機は依然として、関東北部を旋廻中なり。薄暮時期帝都に侵入のおそれあり、警戒を要す」とのべた。さあ松ちゃんが驚いて「敵百五十機が関東北部で廻っていて、こっちへ入ってくる」とあわてふためく。こっちは訳がわからず、いろいろ問答しているうちに「薄暮時期」が「百五十機」と聞こえたとわかり、大笑いとなった。
 しかし後刻、萩原さん(隣家)のおじいさんが野菜をもってきてくれたとき「いま百五十機くるってね」と話しかけられて、おやおやここにも早呑込みがいると驚いたが、なるほど「薄暮時期」と「百五十機」とは言葉が似ており、間違えるのは無理ない。このぶんではずいぶんあちこちで間違えることと思う。情報はもっとやさしくすべきである。いつも小むずかしくいう軍人の頭の具合にも困ったものである。目で見る字と、耳から聞く言葉とに大きな隔たりがあることぐらい、わかっていさそうなもの、大衆相手の情報なんだから、大衆向きにして出すよう考えるのが当然だ。と思う識者はいないのか、識者がいても自分の責任範囲外のときは言わないの
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