すね」と言い、「ドイツも亡びます。いよいよ世界中が日本へ攻めかけ、イタリアやドイツのようにするのでしょうね、ああどうしましょう」と悲たんし恐怖する者をほとんど見かけない。
◯K氏曰く、「僕は生来楽天家かしらんが、この戦争は日本の勝だと信じている。ヨーロッパはもうすぐ食糧で大破綻を生ずると思う。アメリカも食糧でたいへんらしい。食糧で反枢軸国はまず敗北相をあらわしはじめるよ」
◯先日F君の話によると、まだ風船爆弾はあがっているよし。
アメリカでも報道厳禁だそうだから、かなり被害があるらしい。
五月二日
◯昨五月一日、ヒットラー総統はベルリンに於ける戦闘指揮の位置に於いて死去し、後任としてデーニッツ提督を任命したという。
その新総統はハンブルグから全国に放送し、共産主義に対する戦争の継続を宣言し、米英軍といえども共産主義に加担する者は容赦せず、と宣した。
その放送より私の受けとったものは、デーニッツ氏の米英への秋波である。
かねてドイツ海軍内部には、反抗等の暴動ありと伝えられている。その分子がヒットラー総統及びヒムラー内相を暗殺することあらば、ドイツはナチの色を払拭し、休戦するであろうとの情報が存在した。
これとあれとを相関して考え、とにかくヨーロッパに於けるドイツ軍の対米英ソ戦争は終ったのだと思う。
日独伊防共協定も、これが終幕である。あとは大東亜戦争のみが残り、そして継続することは確かである。
但しその他の新事態、新争闘の発生するであろうことは当然であり、大東亜戦争のみがこの世界にひとり進行するのでないことは疑いない。
戦争もこれからが本舞台だ。世界の情勢もこれからがいよいよ複雑化する。しっかりやらなくてはならない。そして長生きして世界の移り変わりをよく見極めたいものである。
◯四月に於けるわが収入は、金五十二円八十銭であった。大学卒業後今日までに於ける最低収入の月であった。記憶に値する。
[#地付きで](この日記終り)
[#改丁、左寄せで]
空襲都日記(二)
[#改ページ、2字下げで]
この騒然たる空の下、事実を拾うはなかなか困難であり、それを書きつけるは一層難事であるが、私としては出来るだけ書き残して行きたいと思う。
昭和二十年五月二日
ヒットラー総統死去のラジオ報道を聴いた夜
[#地付きで]海野 十三
[#ここで字下げ終わり
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