、十二時間に亘りて雷鳴つづく。
◯防空総本部より発表あり。敵爆弾による死者二十六万人(うち原子爆弾死者九万人)負傷四十万人。罹災者九百万人。これは樺太、台湾を除く人口の六分の一に当たる。都市戦災八十市、うち大半焼失せるもの四十四市なりと。
◯遠藤長官発表して曰く「戦前の飛行機生産高は月産五百機、昨十九年六月は三千機、本年になって工場疎開や爆撃熾烈の中にも一千台を維持し得たり」と。
◯米機、明日よりわが本土に監視飛行を開始する。
◯疲労まだ恢復せず、無理に起きている病人の如し。
◯電灯の笠を元どおりに直す。防空遮蔽笠(ボール紙製)を取除き、元のようなシェードに改めた。家の中が明るくなった。明るくなったことが悲しい。しかし光の下にしばらく座っていると、「即時灯火管制を廃して、街を明るくせよ」といわれた天皇のお言葉が、つよく心にしみてきて、涙をおさえかねた。
◯いかなる事ありとも、外出のときはやはりもんぺをはくべし、と命令し置く。
◯暗幕はそのままにして置く。外から覗かれぬよう、また時にはあたりを暗くして置く必要ありと、思いしが故である。
◯手紙を書くことを極力ひかえつつあり。

 八月二十六日
◯昨二十五日、果して米軍機、監視飛行を始める。台風気味の低雲をついて、全身を鉛色に塗ったグラマン、二機以上の編隊でしきりに飛ぶ。子供はよろこぶ。
◯天候のため、連合軍の上陸は、四十八時間順延となった由。
◯十七日信州では「陸海軍に降伏なし、日本航空隊司令官」と伝単[#宣伝ビラ]をまいたそうな。
◯井上康文[#口語自由詩で、民衆の現実を描こうとした、「民衆派」の詩人]君の詩、昨二十五日夜放送さる。いやな気がした。われら当分筆を執るまい。
◯中川八十勝君、昨夜郷里広島へ出発。家族は大竹ゆえ、たぶん心配はないと思うが、友人、知己、親戚など広島に多く、この方が気がかりと見える。広島の死者は三万から九万にふえた。負傷は十六万だった。二十五万の広島でこれだけの死傷が一時に発生したのであるから、そのときの惨状は地獄絵巻そのものであったろう。誰かその画を描き、アメリカ、イギリスなどへ贈呈してはどうかと思う。
◯今日は放送二つを聴いて、洗心させられた。一つは陸軍大臣下村大将の「陸軍軍人及び軍属に告ぐ」の平明懇切なる諭《さとし》、もう一つは頭山秀之氏の「新日本への発足」という話で、日本の負けたのは敗
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