い。これはわしの考案したものでな、ほかにはない特殊のものじゃ」
「煙の出るところが五つもありますね」
「そうだ。五種類の薬品をつめこんであるのだ。それを適当に蒸発せしめて、或る特殊のリズムで脳神経に刺戟をあたえる。このリズムを決定することがむずかしい」
「なるほど。僕もそのリズムの利用には気がついていましたよ。面白い療法ですね。どんな味がするか、僕にもちょっと吸わせてください」
「いや、いけない!」
 博士は目をくるくるさせてパイプをポケットに隠《かく》した。
「君なんかが吸うと、とんでもないことになる。絶対にいけない」
 博士の狼狽《ろうばい》ぶりを、僕は意外に感じた。
「君に警告しておくが、君は実在の人間ではなく、イマジナリーの人間なんだ。それを忘れないようにしなければならんね。つまり何でもわれわれと同じには、やれないってことを、よく頭にいれておいてもらいたい」
 イマジナリーの人間! それはそうだ。僕は二十年後の世界へ先走りをして生活をしているのだから。
「君は何も知らないが、君の実在する世の中からその後二十年経つ間に、文明はあらゆる方面において驚異《きょうい》的な発展進歩をとげ
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