はなくて、どうやら煙草のパイプの類らしいことが分った。
普通のパイプは、煙草をつめる火皿、すなわち雁首《がんくび》が一つである。ところがカビ博士が口にくわえるパイプには、五つの雁首が並んでいるのだった。そしてそれに一々火をつけるわけでもないのに、雁首から煙がゆらゆらとあがった。
その煙のあがり方が愉快だ。五本の雁首から五本の煙があがって、煙突だらけの工場そっくりになるかと思うと、次の雁首の一つだけが煙がゆらゆら立ちのぼる。そうかと思うと、こんどは三本から立ちのぼる。それを見ていると、まるで煙の音楽会というか、煙の舞踊《ぶよう》会というか、たしかに或るリズムに乗って煙がふきだしてくるのであった。
もちろん、その合間合間には、博士の髭《ひげ》だらけの中から、別にもうもうたる煙がふき出てくる。
「先生は、煙草がお好きと見えますね」
僕は、素直に感想をのべた。
「うん。わしは連日《れんじつ》、脳細胞を使い過ぎるので、どうしてもこれをやらないと、早く疲労《ひろう》がとれないのじゃ」
「ずいぶん変わった形のパイプですね。そんなパイプが海底都市では、はやるのですか」
「はやるというわけではな
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