調子で、僕に話しかけた。
「いやいや、僕はうんと疲《つか》れましたよ」
「それはあとで食事をすれば、たちまち直るから心配ない」
「そうですかね……それにあの学生さんたちが無遠慮《ぶえんりょ》に僕のからだをいじりまわすので閉口《へいこう》しました」
「おいおい慣《な》れれば、大した苦痛じゃなくなるよ。なにしろ学生たちは君に対して異常な興味をもっている。だから君は今後ますます大切に扱《あつか》われるだろう」
「そんなに彼等は興味を持っていますかね」
そのことが災難の火の元だとは知らずに、僕はむしろ得意になって聞きかえした。
五頭《ごとう》パイプ
カビ博士の顔の下半分は黒い毛でうずもれている。その毛むくじゃらの草原のまん中が、ぽっかりあくと、赤いものが髭越《ひげご》しに見える。それは博士の口の中の色である。この赤いきんちゃくのような口は、ひろがったりすぼまったりして、よく動く。そして髭の中から博士のがらがら声がとび出して来るのである。
博士は、僕との対談のうちに、安全|剃刀《かみそり》の柄《え》をくわえた――と見えたが、それから煙が出てくるところを見ると、それは安全剃刀で
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