た。人でも人体改良《じんたいかいりょう》には、非常な努力が払われ、そして改造進化が行われ、今日の高等人間を生むに至ったものである」
「高等人間ですって。人体改造ですって」
「人体の進化を自然にのみまかせていたのは昔のことさ。なんという知恵のない話じゃないか。さればこそ昔の人間はやたらに病気にかかって悩み、そして衰弱し生命を縮めた。そればかりか人智《じんち》のレベルは、さっぱり向上しなかった。なぜ昔の人間は、そこに気がつかなかったんだろう。人為《じんい》的に人体改造進化を行う事によって病気と絶縁《ぜつえん》する。それから人智を高度にあげる。こんな思いつきは赤ん坊にでも出来ることじゃないか。もちろん今の赤ん坊のことだがね。とにかく昔の人間は実に哀れなものだった。眼前の実在のみに注意力や情熱を集中して、遙かなる未来世界について夢を持つことをしらず、従ってその夢から素晴らしい現実の発展が起こることにも想到《そうとう》しなかった。ああ哀《あわ》れなりし人類よ……」
カビ博士は、日頃のとつ弁《べん》とはうってかわって雄弁に論旨《ろんし》をすすめていた。しかし僕は白状するが、博士の熱弁を聞くのは、
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