すね。ほほほほ」
僕は、ぎょっとしてうしろをふりかえった。
「ああッ、これは……」
壁にうつっている僕の影法師! なんとそれは大人の影法師ではなく、坊主頭《ぼうずあたま》の子供の影法師だった。つまり僕は今大人の姿をしているが、壁にうつっている影法師は子供の姿をしているのだった。僕が時間器械に乗って、二十年後の世界にもぐりこんでいることを影法師ははっきりと語っているのである。僕は身体がすくんでしまう思いで、頭をかかえた。
「たいへんよ。気をつけなくては……。もし検察官《けんさつかん》に知れると、あなたは密航者《みっこうしゃ》として、たいへんな目にあわなくちゃならないわよ。一体どうなさるおつもり?」
女史の言葉に、僕は塩をふりかけられたなめくじのように、いよいよ縮《ちじ》まった。
密航者狩《みっこうしゃがり》
あんなにおどろいたことは今までにない。僕は大人になっているつもりで、なまいきな口をきいているのに、僕の影法師は、いが栗《ぐり》の頭の子供なんだ。そして、それをヒマワリ軒の女主人カスミ女史に言いあてられてしまったのは、一層きまりの悪いものだった。僕の顔は火が出そう
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