なったのだ。
「君、君。ちょっと聞くがね、この店の料理の値段はいくらだろうか。一人前が何円かね」
「料理の値段ですか。それは一人前五点にきまっています」
「五テン? 五テンて何だね。まさか五円の間違いではなかろうが……」
「五点です、間違いなしです」
僕はタクマ少年の言葉を解しかねたが、ポケットに手を入れて財布《さいふ》をさがした。財布らしいものはどこにもなかった。これはいけない、金がなくては料理どころではない。
「あのうタクマ君。はなはだ僕がうっかりしていたが、僕はお金を持って来るのを忘れたんだがねえ。だから食事は、やめにしよう」
「ああ、支払いのことなら心配いらないです。あとで政府から支配命令書が来たとき払えばいいのですから」
「ああ、そうかね。それで安心……」
僕は、腹をさすった。
さて僕たちは二百メートルも長廊下を歩いた末に、やっと大食堂に出た。そして案内されるままに一つの食卓についたが、その食の豪華さに目を奪われた。
「お客さん、料理が来ましたよ」
タクマ少年の声に、僕は食卓へ目を移したが、そのときは僕は意外さに目をみはらねばならなかった。
見えざる診察者《
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