るぐる廻って長く続いている。廊下の壁紙の模様は、蔦《つた》の葉や紅葉《もみじ》や松などに変っていくが、しかし至極《しごく》単調である。照明も、あまり明るくない間接照明だ。ゆるやかな音が聞えてくることは、前の円形の部屋と同じだ。
「ずいぶん歩かせるじゃないか」
 僕はたまらなくなって、タクマ少年に耳うちをした。
「食前には正常な歩調で姿勢を正しく歩くとたいへん消化力が強くなるから、こうして歩くのです。この廊下は、迷路に似たもので、家の中をぐるぐる廻るようになっていますが、しかし一本道ですから、決して迷うようなことはありません。それにこの廊下を通る間に、私たちに対して或る重要な測定が行われているのです」
「重要な測定!」
「そうです。それがどんな重要な測定であるかは、やがて食卓につけば分ります。それまでこの話はお預りにしておきましょう」
 僕は異常な興味をかきたてられたが、しばらく辛抱することにした。そしてまた歩き続けた。
 そのうちに僕は、当然気がかりなことを思い出した。
 それは外《ほか》でもない。僕がこの料理店に支払うだけの金を持っているかどうか、蟇口《がまぐち》の中味のことが心配に
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