リ軒と来たら、だいぶん勝手がちがう。まず入口を入ったすぐのところが円形《えんけい》の広間になっていて、天井は半球《はんきゅう》で、壁画が秋草と遠山の風景である。急に富士山麓《ふじさんろく》へ来たような気持ちになる。あまり高くない奏楽《そうがく》が聞こえていて、気持はいよいよしずかになる。そこで二分間ばかり待たされていると、「どうぞ、こちらへ」という声がして奥へ通ずる扉を自動的に開かれる。そこで私たちは奥へぞろぞろ入って行く。
「タクマ君。僕たちはなぜ待たされたんだい。やっぱり食卓の用意をととのえるためかい」と、僕は少年にきいた。
 すると少年は、頭を横にふってそれから僕の耳へそっと囁《ささや》いた。
「違いますよ。あそこで僕たちは消毒をされたんです。外から入って来た者は、どんなばい菌を身体につけているか分りませんから、それでガスで消毒したんです。もうきれいになりました。服も手も足も口の中も、十分に殺菌《さっきん》されましたから、ご安心なさい」
「ははん、そうかね」
 僕は、感心してしまった。
 ところが、今僕がタクマ少年と歩いている廊下なんだが、それがいやに長い。その廊下はどこまでもぐ
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