は、早足のタクマ少年に手を引張られて、人波の中をぐんぐん歩いていった。これが大きなおどろきの序幕《じょまく》だとは露知《つゆし》らずに……。


   長い廊下《ろうか》


「ここが、そうなんです。姉の経営しているヒマワリ軒《けん》という料理店です」
 タクマ少年が、僕の袖をひいて立ち停《どま》らせたのは、上品な店舗《てんぽ》の前だった。白と緑の人造大理石《じんぞうだいりせき》を貼《は》りめぐらし、黄金色《こがねいろ》まばゆきパイプを窓わくや手すりに使ってあった。
「ほう、なかなか感じのいい店だ、さぞ料理もおいしいであろう」
 僕はタクマ少年について、店内へ入った。この店内の構造が、僕を面くらわせた。
 これまでの僕の知識によると、料理店の構造は、まず玄関を入ると、お帽子《ぼうし》外套《がいとう》預《あず》かり所《じょ》があり、それから中へはいると広間があって、ここで待合わせたり、茶をのんだりする。その奥に大食堂があって、卓子《テーブル》の準備が出来るとボーイさんが広間まで迎えに来る。まず、そういう構造の料理店が普通で、その外に酒場がついているところもあった。
 ところが、このヒマワ
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