、あきれはてたというような顔つきで僕の方を見上げる。僕ははずかしくて、あかくなった。
「今日はすこし頭がぼんやりしているんでね、とんちんかんなことをいうんだよ」と僕はいいわけをして、「おやおや、深度基点〇メートルはいいが、その脇《わき》に但《ただ》し書《がき》がしてあるじゃないか。『世界|標準海面《ひょうじゅんかいめん》(基本水準面《きほんすいじゅんめん》)下《か》一〇〇メートル』とあるところを見ると、ここは大体のところ、海面下百メートルの地点だということになる。ははあ、それでやっとわけがわかった。ここは海の底なんだな」
「お客さまは、ずいぶん頭がどうかしているんですね。ここが海底にある町だということは、赤ちゃんでも知っていることですよ。一体お客さまはどこからこの町へ来たんですか。海底の町へ来るつもりではなくて、この町へ来たんですか」
「まあまあ、そういうなよ。すこし気分が悪いから、しばらく君は黙っていてくれたまえ。ああ、ちょっと休まないと、頭がしびれてしまう」
じょうだんではなかった。僕はその場にしゃがんで、額《ひたい》に手をやった。額には、ねっとりと脂汗《あぶらあせ》がにじみ出て
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