うぞこちらへおいで下さい」
そういってタクマは僕を玄関から外に連れだした。
僕はそこで、おびただしい人通りを見た。ホテルの前はにぎやかであった。行き交《か》う多くの人々は、いいあわせたように帽子もかぶっていなければ、オーバーも着ていない。そしてタクマ少年のように身体にぴったりあった上下のシャツを着て、平気で歩いていたのだった。それを見た僕の方が顔をあかくしたほどであった。
「この町には、貧乏な人が多いと見えるね」
僕は、案内係のタクマ少年にそういった。
「ええっ、貧乏ですって。貧乏というのはどんなものですか」
少年は貧乏でいながら、貧乏というものを知らないらしい。なんてのんきな少年だろう。
「だって君。こう見渡したところ、町を歩いている人たちは服も着ないで、シャツとスボン下だけしかつけていないじゃないか」
君もその一人で、シャツとズボン下だけしか身体につけていないじゃないか――といいたいのを僕は遠慮して、このホテルの玄関の前を通行する人々だけを指していったのだ。
するとタクマ少年は、目を丸くして僕の顔を見、それから通行人たちの姿を見て、声をあげて笑った。
「お客さんは、ずい
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