のかもしれない。
「ああ、もう帽子もオーバーもいらないよ。実は僕はすこし風邪《かぜ》気味なのでね、外は寒いだろうから温くしようと思ったんだが、急に今気持ちが直って来たから、もう帽子もオーバーもいらない」
 僕は苦しいいいわけをした。老ボーイはきょとんとした顔であった。僕のいうことが通じないらしい。
 もっとも後で分かったことだが、この町は、家の中も往来も、温度はいつも同じの摂氏十八度に保たれていた。
「では、出かける」
 僕が部屋を出て行こうとすると、老ボーイは夢からさめたような顔をして、先に立った。
 ホテルの帳場は、はじめて見たが、宮殿のようにすばらしい構えであった。その中からちょこちょこと一人の少年が走り出た。顔の丸い、ほっぺたの紅い、かわいい子供だった。全身を、身体にぴったりと合う黄色いワンピースのシャツとズボン下で包んでいた。かわいそうに、この子は貧乏で、服が買えないのであろう。
「あい、旦那さま。それなる少年が、案内係のタクマ君でございます。おいタクマ君、おそまつのないように十分ご案内をするんだよ」
 老ボーイはそういって少年をひきあわせた。
「こんにちは、お客さま。ではど
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