ぶん田舎からこの町へお出でになったんでしょうね。だからお分りにならないのも無理はありませんが、あそこを通っている人たちも私も、一番りっぱな服を着ているのでございます」
「一番りっぱな服だって。でもシャツとズボン下とだけではねえ」
「よくごらん下さい。これは一番便利で、働くのに能率のいい『新やまと服』なんです。身体にぴったりとついていて、しかも伸《の》び縮《ちじ》みが自在《じざい》です。保温がよくて風邪もひかず、汗が出てもすぐ吸いとります。そして生まれながらの人間の美しい形を見せています。私たち若いものには、この服が一番似合うのです。お客さんのお年齢《とし》ごろでも、きっと似合うと思いますから、なんでしたら、後でお買いになっては、如何ですか」
お客さんの年齢《とし》ごろ――といわれたので、僕は自分が時間器械に乗ってこの国へ来てからこっちいっぱしの大人の形となり、髭《ひげ》まで生えていたことを思い出した。
「なるほど。わしは田舎から来たばかりなんで、この町のことはよく分らんのだ。それで君に案内を頼んだわけさ。はっはっはっ」
僕は笑いにまぎらせて、たいへん進歩した、新やまと服の議論をおし
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