れたことさ。君という夫がある」
「ちょっと待った。そこなんだが――」
 と僕は一息ついて、
「かの妻君には僕という本当の夫がある。そこへ持って来て、これから本当の僕ではない僕の影が出ていって会う。これはへんなもんじゃないか」
「なんだって」
「そうだろう。影の僕が出ていって、妻君に会う。二人で話をしているそのそばへ、二十年後の世界の本当の僕がのこのこ現れて妻君のそばへ行く。すると僕の姿をした同じ人間が二人も出来て、妻君の前に立つ。妻君はそれを見てどうするだろう。おどろいて目をまわしてしまうぜ。だから会わない方がいいんだ」
「わははは」
 とカビ博士は笑いだした。
「気がつかないで通りすぎるかと思ったが、とうとうそこに気がついてしまったか」
「なんだ、君は始めからその矛盾を知っていたのか。人のわるい男だ」
「いや、これには実は深い事情があるんだ。それを今ここで説明しているひまはないが、とにかくわしは君に保証する。いいかねその深い事情が実にうまく今一つの機会を作っていて、君と妻君が会うに、今が絶好の機会なんだ。君の妻君は君を決して怪《あや》しみはしないだろう。またほんものの君が横から出て来
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