書きつづることができないほどの奇妙な気持ち! 僕はいつの間にか、りっぱな大きな部屋のまん中に突立っていたのだ。
 そして僕の前に立っているのは、燕尾服《えんびふく》を着た、頭のはげた、もみあげの長い、そして背の高いおじさんだった。
「ああ、おじさん。今日は。僕は辻ヶ谷君の紹介で、二十年後の世界を見物に来た本間という少年ですがね……」
 と僕が名のりをあげると、そのおじさんは顔をでこぼこにして、
「ご冗談《じょうだん》を。へへへへ」と笑った。
 僕は、なにを笑われたのか分らなかった。
「失礼でございますが、あなたさまが少年とはどう見ましても、うけとりかねます」とその老ボーイらしき燕尾服《えんびふく》の人物が言った。そして美しいクリーム色の壁にかかっている鏡の方へ手を傾《かたむ》けた。
 僕は、何だかぞっとした。が、その鏡の中をのぞいてみないではいられなかった。僕はその方へ足早によった。
 僕はびっくりした。鏡の中で顔を合わせた相手は、どことなく見覚えのある顔付《かおつき》の人物だった。年齢の頃は三十四五にも見えた。鼻の下にぴんとはねた細いひげをはやしている。僕が顔をしかめると、相手も顔を
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