すでに辻ヶ谷君はがらがらと引戸をしめにかかっていたので、その音に僕の声はうち消されて辻ヶ谷君の耳にはとどかなかったようである。さあ困ったと不安が再び僕の上にはいあがって来た。
いや、その不安よりも、もっと大きい不安が今僕の上に落ちてきた。それは、ばたんと閉じこめられたこのタイム・マシーンの中だ。
それは卵の中へ入ったようであった。卵|形《かた》の壁だ。それが鏡になっているのだ。僕の顔や身体が、まるで化物《ばけもの》のようにその鏡の壁にうつっている。僕がちょっと身体をうごかすと、鏡の中では、まるで集団体操をやっているようにびっくりするほど大ぜいの化物のような僕の像がうごいて、同じ動作をするのであった。不安は恐怖へとかわる。
「おい、辻ヶ谷君。ここから僕を出してくれ。困ったことができたのだ。早く出してくれ」
僕は鏡の壁を、うち叩いた。だが辻ヶ谷君の返事は聞えない。僕はのどがはりさけるような声を出して、鏡の壁をどんどん叩きつづけた。
「おほん。何か御用でございましょうか」
聞きなれない声が、後にした。
僕はぎくりとして、後をふりかえった。
ああ、そのときのおどろきと、そしてここに
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