分がいやになった。
 カビ博士の講義がすむと、こんどは男女学生が、僕のからだをいじりまわした。それは直接手でいじるのではなく、ぴかぴか光った長い消息子《しょうそくし》のようなものを、透明碗の外から中へつきたて、その先についている五本指の触手《しょくしゅ》みたいなものによって、僕のからだをいじるのであった。僕には、いくら圧《お》しても鋼鉄の壁のように硬くて動かない透明碗の壁を、学生たちが消息子を手にとって壁につきさすとかんたんにぷすりとそれをつきとおしてしまうのであった。なんの力を利用したのか、すごい力だ。しかし消息子の先についている触手《しょくしゅ》は、手ざわりのよいやわらかいものであったから、こっちのからだは痛みはしなかったが、そのかわりみんなが無遠慮《ぶえんりょ》に十何本もの消息子でもって僕の腋《わき》の下でも咽喉《のど》でも足の裏でもお構いなしにさわるので、くすぐったくてやりきれなかった。
 その間に、僕に話しかけてくる学生もいた。僕はやりきれなくていい加減《かげん》な返事をしてお茶を濁《にご》した。全くやりきれない。この世界に停《とどま》っていたいがために、こんな苦痛をこらえているわけであるが、ずいぶん、がまんがなりかねる。
「博士。標本人間の肌の色が変って来ましたですよ。足なんか長くなりました」
 よく喋《しゃべ》りまわっている一人の女学生が、カビ博士の胸を叩いて注意をした。
 博士は眉をあげて僕の方を見た。
「ははあ、なるほど。磁界《じかい》がよわくなったらしい。君、ダリア嬢。あの配電盤の黄いろの3という計器の針を18[#「18」は縦中横]のところまであげてくれたまえ。そうだとも、もちろんその計器の調整器《ちょうせいき》のハンドルをまわしてだ」
 ダリヤ嬢とよばれた猿の生まれかわりみたいな顔のお喋《しゃべ》り姫は、博士に命ぜられると、すぐ配電盤のところへ行って、そのとおりにした。
 すると僕は気分が急に悪くなった。見ると自分の足が小さく縮《ちじ》んでいく。肌色がわるくなる。――どうやら僕はある器械が出している磁場《じば》の中にいるらしく、そして今しがたその場の強さがよわくなったので、僕のからだは二十年後の世界の方へ滑《すべ》り出《だ》したものらしい。それを今ダリヤ嬢が場の強さをつよくして元へ戻したものらしかった。
 とにかく妙な仕掛を使っているらしい。そ
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