興味のあるからだを持っている。よく観察されるがよろしかろう」
 これはカビ博士だった。
 見ると、博士はいつの間にか、透明碗の側に立って、僕の方を指して講義を始めているではないか。学生たちも、今までにない真剣な顔で、僕を穴のあくほど見つめている。僕ははずかしさのあまり、全身が火と燃える思いであった。男学生はともかく、女学生に僕の赤裸《はだか》を見られていると思うと、消えて入りたかった。僕は、逃げだした服を追いかけた。が、碗の壁のそばにぽっかりとあった穴の中に、僕の服はするすると入ってしまって、僕は捕《つか》まえそこなった。
「二十年前の人間は、悪病と栄養失調と非衛生とおどろくべき無知無能のために、このような衰弱《すいじゃく》したからだを持っている。よくごらんなさい。これでも十五歳の少年なのである」
 十五歳の少年? カビ博士は、なんというばかなことをいっているのだろうと、僕はふきだしかけて、そのときはっと気がついた。
 手を顔にやってみたところが、髭《ひげ》がないではないか、あのぴーンと立てた僕の特徴になっている髭がないのだ。僕は自分の手を見た足をみた。手足はいつの間にか小さくなっていた。
(ああッ、僕は元の少年の姿になっている。時間器械が働かなくなったのか。元の世界によびかえされたのか。それとも……)
 と、少年の姿に戻った僕は大狼狽《だいろうばい》であたりを見まわした。ところが僕の前にはさっきと同じく、十四五人の男女学生やカビ博士が熱心に僕を見つめている。
 これは一体どうしたわけか。


   興奮《こうふん》する学生


 いつの間にか十五の少年の姿に戻された僕は、カビ博士とその学生たちの前で、さんざんに標本として勤《つと》めさせられた。
 博士は、僕の健康や知能の欠点ばかりを探して、学生たちに講義をした。口を大きくあけさせて、虫くいだらけのらんぐい歯を見せさせたり、肺門《はいもん》のあたりにうようようごめている結核菌《けっかくきん》を拡大して見せさせたり、精神力の衰弱状態を映写幕の上に波形《なみがた》で見せさせたり、そのほかいろいろなことをやってみせた。僕は、なるべく聞いてないことにしたけれど、やっぱり博士の講義が耳に聞こえた。そして僕は、自分のからだが、まるで半分くさった日かげの南瓜《かぼちゃ》のように貧弱きわまるものであることに恥じ、且《か》つ自分で自
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