僕はますます胸がくるしくなった。と同時に、しゃくにさわり出した。僕はたまらなくなって、その夜寝床に入ってから、ふとんの中でその封筒をそっとあけてみた。怪人の命令よりは一日早かったけれど……。
するとその手紙には、「君は十三日午後七時、ふたたび不二見台に立っている。そして君は思いがけない人から思いがけない話をきいて、ふしぎな旅行に出発する事になる」と書いてあった――僕は頭からふとんをかぶってねてしまった。
夜があけると、いよいよ十三日、その当日であった。僕は手紙にあるように、決してその当日は不二見台へのぼるまいと決心したのであった。
だが、目に見えぬあやしい力は、僕に作用し、僕の足は僕の心にさからって僕を不二見台へはこんでいった。そして僕は、そこで思いがけない人に出合った。
かわった少年
無遊病者《むゆうびょうしゃ》のように、廃墟《はいきょ》の不二見台に立っていた僕だった。
僕のからだは氷のようにかたくなって、西を向いて立っていた。暮れ残った空に、この前来たときと同じに、怪星が一つかがやいていた。
「本間君。やっぱり君は来てしまったね」
僕はとつぜんうしろから声をかけられた。その声をきくと僕は電気にうたれたようにその場に身体がすくんでしまった。いよいよ出たぞ、怪人が! 果して何者?
壊れた瓦《かわら》の山を踏む無気味《ぶきみ》な足音が、僕のうしろをまわって横に出た。僕のひざががたがたふるえだした。うつろになった僕の眼に一人の少年の姿が入ってきた。
「本間君、君はふるえているのかい」
僕の気持は、ややおちつきをとりもどした……。
「あっ、君は……」
僕の前に立ってにやにや笑う少年。それは同級生の辻《つじ》ヶ|谷《や》虎四郎《とらしろう》君であった。
この辻ヶ谷君というのは、かわった少年で、少年のくせに額《ひたい》が禿《は》げあがっており、背は低いが、顔は大人のような子供で、いつも皆とは遊ばずひとりで考えごとをしているのが好きで、ときには大人の読むようなむずかしい本をひらいて読みふけっていた。したがって今まで僕たちは、辻ヶ谷君とはほとんど口をきいたことがない。
その辻ヶ谷君の、かさかさにかわいた大きな顔を見たとき、僕は今までの秘密がなにもかも一ぺんに分ったように思った。
「ふふふふ、本間君。なにもそんなにふるえることはないよ。僕は君が好
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