そのとおりであった。ふしぎであった。まるで僕の部屋をのぞいて書いた手紙のようであった。しかしよく考えてみると、この手紙はその前の日にもらったものである。前の日から、翌日の僕の行動が分っているなんて、全くふしぎである。
 ふしぎは、今もそうだ。僕は一時間前、急に決心してこの不二見台へのぼることにしたのだ。それは第二回目の予言をあたらないものにしてやろうと思い、寄宿舎からは電車にのって四十分もかかる、この不二見台へのぼってみたのである。
 ところがどうだ、ちゃんと的中しているのだ。なんという気味のわるいことだろう。これが身ぶるいしないでいられるだろうか。
 その後、僕は神経を針のようにするどくして警戒していた。それは例の気味のわるい予言的な手紙の第三回目の分がそのうち僕の手に届けられるだろうが、そのときこそ僕はその手紙の主をひっつかまえてやろうと思ったからだ。
 ところがその手紙は、僕の予期に反してすぐには届けられなかった。前の手紙がついたその翌日もその翌々日も新しい手紙は届けられず、それではもうおしまいかと思っていたところ、その次の日になって、遂《つい》に第三回目の手紙が僕の手許へ届けられた。ただし僕は一生けんめいに警戒していたにもかかわらず、その手紙の主をつかまえることに失敗した。
 というのは、その手紙は僕がその日の朝、寄宿舎で目をさましたとき、僕の枕許《まくらもと》においてあったからだ。
 ふしぎ、ふしぎ。いったい誰がこんなに早くこのあやしい手紙を持って来たのであろう。僕が何にも知らないで眠っているとき、僕の枕許に近づいてこのあやしい手紙をおいて行く怪人《かいじん》――その怪人の姿を想像して僕は戦慄《せんりつ》を禁ずることができなかった。なんという気味のわるいことだろう。その怪人は、そのとき僕の寝首をかくこともできたのだ。そう考えると僕はますます気持がわるくなり、自分のくびのあたりを手でさわってみた、もしや怪人の刃をうけてそこから血でも出てはいまいかと、心配になったので……。もちろん血は出ていなかった。
 怪人の正体は、僕には全く想像がつかなかった。僕はその第三回目の封筒を手にして、しばらくはふるえていた。封筒の上には、これまでと同じに、明日の午後七時に開封せよとの注意がしたためてあった。
 僕はその日一日中、あやしい手紙のことでいっぱいであった。夜になって
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