きだから、君を選んだわけだ。僕は君をうんとよろこばしてあげるつもりだ」
「あんないたずらをしたのは、君だったの」
「いたずらだって、とんでもない。いたずらなんという失敬なものじゃないよ」
 と辻ヶ谷君は僕と向きあって、大きな顔をきげんのわるい大人のような顔にゆがめた。
「僕は君に、すばらしい器械のあることを教えてあげたのさ。実にすばらしい器械さ。未来のことがちゃんと分る器械さ。いや、そういうよりも、未来へ旅行する器械だといった方が適当だろうね」
 辻ヶ谷君は、とくいらしく右あがりの肩をそびやかせた。
「未来へ旅行する器械? うそだよ。そんなものがあってたまるものか」
 僕は信じられなかった。
「ふふふふ。君はずいぶん頭がわるいね。なぜって、そういう器械があればこそ、君は三回も、その翌日の行動を僕にいいあてられたんじゃないか」
 辻ヶ谷君がなんといおうと未来の世界へ旅行ができるなどというふしぎな器械が、この世にあろうとは、僕には信じられなかった。
「頭がわるいねえ、本間君は……」と、辻ヶ谷君は気の毒そうに僕を見ていった。「まあいい。君をその器械のところへ連れていってやれば、それを信じないわけにいかないだろう」
「君は、気がたしかかい」
 僕はもうだいぶんおちついてきたので、そういってやりかえした。
「僕のことかい。僕はもちろん気はたしかだとも。さあ、それではこっちへ来たまえ。そこに入口があるんだから……」
 そういった辻ヶ谷君は、そこにしゃがみこんで、自分の足もとの、こわれた瓦《かわら》の山を掘りかえしはじめた。しばらく掘ると、下からさびた丸い鉄ぶたがあらわれた。辻ヶ谷君はその鉄ぶたの穴へ指を入れ、上へ引っぱるとふたがとれ、その下は穴ぼこになっていた。辻ヶ谷君は、こんどはその中へ手をぐっとさしこんだ。肘《ひじ》も入った。腕のつけねまで中に入った。顔を横にして辻ヶ谷君はしかめッ面になった。
「どうしたい、辻ヶ谷君」
 僕は、すこし気味がわるくなったので、きいてみた。
「しずかに……」辻ヶ谷君は、しかりつけるようにいった。
「……うん、あったぞ」
 辻ヶ谷君の青んぶくれの顔に赤味がさしたと思ったら、彼はあらい息と共に穴から腕をひきぬいた。穴ぼこの中からがちゃがちゃという音がきこえたと思ったら、彼の手は鉄の鎖《くさり》を握って引っぱりだした。
「これさ。これを引っぱると、君
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