しい。燈台の灯でもあろうか。かなり高いところにある。その菫色の燈火をめがけて、この動く螺旋形の道路は近づいていくようである。
「さあ、道路をとび越えますよ」
庭の飛石を飛び越えるように、僕たちは高速道路から低速道路へと渡っていった。そして最後にぴょんと動かない歩道の上に立った。例の菫色の大燈火は、このときちょっと頭上にあった。よく見れば、それは天井についている大きな半球形の笠の中に入った電灯であり、その笠には「海中展望台」という五文字が、気のきいた字体で記されてあった。
「いよいよ来ましたよ。ここが、この町中で一番高いところです。ほら、この標柱《ひょうちゅう》をごらんなさい。『スミレ地区|深度基点《しんどきてん》〇メートル』と書いてあるでしょう」
そういってタクマ少年は、そこに立っているおごそかな石碑《せきひ》のようなものを指した。
なるほど、正《まさ》にそのとおりに記されている。
「スミレ地区の深度基点はここだというわけだね。スミレ地区というのは、この町のことかい」
「お客さんはスミレ地区へ見物に来ながら、ここがスミレ地区だということさえご存じなかったんですか」
タクマ少年は、あきれはてたというような顔つきで僕の方を見上げる。僕ははずかしくて、あかくなった。
「今日はすこし頭がぼんやりしているんでね、とんちんかんなことをいうんだよ」と僕はいいわけをして、「おやおや、深度基点〇メートルはいいが、その脇《わき》に但《ただ》し書《がき》がしてあるじゃないか。『世界|標準海面《ひょうじゅんかいめん》(基本水準面《きほんすいじゅんめん》)下《か》一〇〇メートル』とあるところを見ると、ここは大体のところ、海面下百メートルの地点だということになる。ははあ、それでやっとわけがわかった。ここは海の底なんだな」
「お客さまは、ずいぶん頭がどうかしているんですね。ここが海底にある町だということは、赤ちゃんでも知っていることですよ。一体お客さまはどこからこの町へ来たんですか。海底の町へ来るつもりではなくて、この町へ来たんですか」
「まあまあ、そういうなよ。すこし気分が悪いから、しばらく君は黙っていてくれたまえ。ああ、ちょっと休まないと、頭がしびれてしまう」
じょうだんではなかった。僕はその場にしゃがんで、額《ひたい》に手をやった。額には、ねっとりと脂汗《あぶらあせ》がにじみ出て
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