で立っている。
「ねえ、タクマ君。一体見物する第一番の名所はどこなのかね」
 僕はたずねた。
「まずこの町の一番高いところへ御案内するのが例になっています。そこへ行けば、魚群《ぎょぐん》が見えます」
「えっ、なんだって」と僕はおどろいた。
 どうもタクマ少年の話は、いちいちおかしい。しかし僕がそれをつっこむと、たいてい失敗してこっちが田舎者あつかいにされる。でも、こんどはタクマ少年をかならずへこますことができると思った。
「ねえ、タクマ君。君は今、魚の群を見物するために、一番高い所へ案内しますといったが、それはいいまちがいだろう。だって、魚は海の中に泳いでいるんだから、それを見物のためには、一番高い所ではなく、一番低いところへ行かなくてはなるまい。え、君。そういう理屈《りくつ》だろう」
 そういって僕は、どうだいといわんばかりに胸をはって少年を見た。
「いや、お客さんのおっしゃることの方が、まちがっていますよ。だってこの町では、下へさがればさがるほど魚はないんですからね」
「深海魚《しんかいぎょ》ならいるんだろう」
「いえ、そこには第一水がなくて土と岩石《がんせき》ばかりです。だから魚はすめやしません。しかし一番上へ行けば、海の中が見えますから、魚も見えるわけです」
「なんだか君のいうことは、ちんぷんかんぷんで、わけがわからないね」
 と、僕はとうとう、さじをなげてしまった。


   海中展望台


 タクマ少年のいうとおりになって、僕はいくども動く道路をのりかえ、どんどんはこばれていった。
 その途中には、トンネルがあったり、明るい商店街があったり、にぎやかなプールがあったり、動く道路の上にしゃがんでて遠くから黙って見ていても一向《いっこう》退屈《たいくつ》でなかった。この二十年後の世界の人々は、みんな幸福であるらしくたいへん明るく見え、そして元気に動いていた。
 動く道路が、螺旋《らせん》のようにぐるぐるまわりをして、だんだん高いところへ登っていくのが分った。
「お客さま。目的地に近づきましたから、そろそろ下りる支度《したく》にかかりましょう」
 タクマ少年は、僕の方をふりかえって、そういうと、腰をかけた僕も急いで腰をあげた。下りそこなっては一大事である。
 うつくしい菫《すみれ》色の大きな星が空に輝いている――と思ったが、それはどうやら燈火《あかり》であるら
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