でしたね。お客さまは遠いところから始めてこの町へいらしったので、この町の乗物をご存じなかったのですね」
「うん、まあそうだ」
「この乗物はたいへん便利に出来ています。つまり長いベルトが動いているのです。道が動いているといってもいいわけです。私たちはあの上へ乗りさえすれば、ベルトが動いて、ずんずん遠くへはこんでくれるのです。さあ乗ってみましょう。一二三で、一緒に乗れば大丈夫ですから。さあ一イ二イ三ン」
動く道路などというものに始めてお目にかかった僕は、気味がわるくて仕方がなかったけども、思い切ってタクマ君と一緒に、その動く道路へとび乗った。と、ふらふらとたおれかかるのを、タクマ少年は僕の腰をささえてくれたので、幸いにたおれずにすんだ。少年の頭は僕の胸のところぐらいしかない。
なるほどこれは便利だと、僕は感心した。動く道路の上に立っていると、歩きもなんにもしないのに、どんどんと遠くへいってしまうのであった。これならいくら遠方まで行ってもくたびれることはないだろう。
「さあお客さま。こんどはもう一つ内側の、もっと早く動いている道へ乗りかえましょう」
タクマ少年は、そういって奥を指して歩きだした。
なるほど、今僕が乗っている道路のとなりに並んで、ずっと早く動いているもう一つの道路があった。
「ほう、こっちが急行道路だね」
「いや、急行道路は、これからまだもう三つ奥の道路です」
「へえっ、そんなにいくつも変った速力の道路があるのかね」
「はい、みんなで五本の動く道路が並んでいるのです」
ふしぎな道路があればあるものだ。
「それじゃあ急行道路は、ずいぶん速く動くんだろうな。時速何キロぐらいかね」
「時速五百キロです」
「五百キロ? たいへんな高速だね。それじゃ目がまわって苦しいだろう」
「いえ、第一道路から第二道路へ、それから第三第四第五という風に、順を追って乗りかえて行きますから、平気ですよ。目なんか決してまわりません」
「へえっ、そうかね」
僕はそういうより外《ほか》なかった。そしてあとはタクマ少年のいうとおりにして、動く道路をぴょんぴょんと一つずつ乗りかえて、ついに急行道路へ乗りうつった。なるほど速い。風が強く頬をうつ。
「うしろへ向いて、しゃがんでいらっしゃれば、わりあい楽ですよ」
少年は教えてくれた。僕はそのとおりにした。少年の方はなれていると見え、平気
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