い攻撃を加えたりするのはまちがっていないかと思うが、どうだ」
僕は、ここぞと熱弁《ねつべん》をふるった。
「それこそ君たちの一方的な考え方だ。とにかくわれわれの現《げん》に蒙《こうむ》っている損害を見てくれれば、どっちの主張が正しいか分るのだ。われわれは今までに、がまん出来るだけのがまんをして来た。しかしもうこの上はがまんが出来ないのだ。君はこれから海底の下へおりて、われわれの蒙っている実害を視察するのだ。その上で改めて君の釈明《しゃくめい》を聞こう」
海底の下へ――とは、海底の下に、まだ国があるのだろうか。彼等トロ族の住んでいる国がそこにあるのだろうか。魚人《ぎょじん》は、僕を海底のまたその下へ引きずりこもうとするのだ。どうしよう。行こうか、それとも断《ことわ》ろうか。
「よろしい。僕は視察する。万事《ばんじ》は視察した上でのことだ」
「来たまえ。そして見たまえ」
魚人は僕の手をとると、どんどん足許《あしもと》を掘り始めた。彼の足はプロペラのように動いて、みるみる穴が大きくなっていった。僕のからだはその穴へ引きずりこまれた。穴のふちは、僕の目の高さよりはるかに上にあった。
「来たまえ。こっちだ」
魚人が手をはげしく引っぱった。僕は魚人に引きずられるようにして歩いた、始めはたいへん歩きにくかったが、そのうちに楽になった。しかしかなり抵抗がからだの正面に感じられた。それはまだいいとして、憂鬱《ゆううつ》なことには、あたりがまっくらで、墨《すみ》つぼの中を歩いているような感じのすることであった。
地底《ちてい》居住者《きょじゅうしゃ》
僕は途中のことをよくおぼえていない。あの気持のわるい海底の、そのまた下の泥の中へひきずりこまれていったとき、途中で気を失ってしまったらしかった。
「あ、痛ッ!」
高圧電気にふれたときのようなはげしい衝動《しょうどう》を感じると共に、全身にするどい痛みをおぼえた。それで僕は気がついた。
すると、奇妙なたくさんの声が笑うのが聞こえた。僕をあざ笑ったのにちがいない。
僕は空気兜《くうきかぶと》の中から目をみはった。意外な光景が、前にあった。そこにはあの黒ずんだ海水がなかった。水のない空間が、あかるく光っていた。うす桃色の大きな波が、その空間をうずめて、左右上下にさかんに動いていた。
僕の目がだんだん落ちついてくる
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