のならさっさと話しかけてくれたらどうだね」
 相手に通ずるという自信はなかったが、かねてカビ博士から教わっていたところもあるので、思いきって普通のことばで話しかけてみた。
 或る程度のききめはあったようだ。僕が話しかけると同時に、怪物群は一せいに動きまわるのを中止して、僕の方へ頭部をつきだすようにしたからだ。
「もしもし、トロ族君たち。話は早いところきまりをつけようじゃないか」
「それはこっちも望《のぞ》むところだ」
 奇妙な声が、僕に答えた。それはすりきれた音盤《おんばん》にするどい金属針をつっこんで無理にまわしたときに出るゆがんだきいきい声だった。
「よろしい。君たちはいったい何を希望するのかね、われわれ人類に対して……」
「へんなことをいっては困る。われわれも人類だよ。君たちだけが人類じゃない」
 返事とともに怪物群は、一せいに頭部《とうぶ》をゆすぶって奇声《きせい》を放った。それはあざけりの笑い声のようにひびいた。
「僕には信じられない。ほんとうに君たちも人類であるなら、ちゃんと姿をあらわしたがいいではないか。そんな揚げない前の天ぷらみたいな恰好で僕の前に立っていて、おかしいではないか」
 鋸《のこぎり》の目たて大会のように、きいきい声がはげしくおこった。が、そのうち別の声がすると、きいきい声はぴたりとしずまった。
「ではヤマ族君」と相手の声がいった。
「われわれは姿を見せるであろう。今まで姿を見せなかったのは、一つには防衛のためであり、また一つには君たち劣等《れっとう》な人類がわれわれを見て、気が変になるような事があっては困ると思ったからだ」
 劣等な人類――とは、何事であるかと、僕は少々むかむかしたが、それはおさえた。誰が気が変になんかなるものか。
「御念《ごねん》の入ったごあいさつです。気が変になんかなりませんから、早く素顔《すがお》と素顔とをつきあわせましょう」
 そういってしまってから、僕はしまったと思った。なぜなれば、こっちは潜水兜《せんすいかぶと》なんかをからだにつけているのだ。これをとって素顔を見せたりすると、たちまちあっぷあっぷで土左衛門《どざえもん》と変名しなくてはならない。
 そのときであった。僕はおどろきのあまり息がとまった。
 見よ、一せいにトロ族が姿をあらわした。例の背の高い土饅頭《どまんじゅう》みたいなものが、とろとろと下にとけ
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