こはくじ》。これは吉祥天女像《きっしょうてんにょぞう》、第三は葛飾《かつしか》の輪廻寺《りんねじ》の――」
「まあ、後でゆっくり読んで、案を練るがいい。それについてもう一ついって置くが、そのピストルはこっちへ預けて行け」
烏啼は、貫一のピストルを鷲《わし》づかみにして、さっさと懐中へ収《しま》いこんだ。貫一はあわてた。
「じょ、冗談を。それを召上げられては、こちとらは――」
「貫一。こんどの出獄を機会に、ピストルの使用を禁ずる。それがお前の身のためだ。しかといいつけたぞ」
「そんな無茶な……あっ、兄貴」
烏啼は、つと立って奥へ入った、大狼狽《だいろうばい》の貫一と艶麗《えんれい》なるお志万をうしろに残して……
たしかな腕前
黒い森の上には戸鎌《とがま》のような月が懸っていた。春はどこかへ行っちまって、いやに冷え込む今宵だった。森をめがけて、すたすた近づいて来る一つの人影。
それがいきなり跼《かが》んだかと思うと、かちッとライターの火が光った。やがて暗闇に、煙草の赤い一つ目が現われる。
「さて、仕事前の一服と……。寺はあれだな」
と、ひとりごとをいうこの怪漢こそ、
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